2008.07.07

歩いても 歩いても

「誰も知らない」の是枝裕和監督最新作は、ある一家の一日をさりげなく描きながら、そこに流れる家族のすれ違いと悲しみを描いた「歩いても 歩いても」


夏の盛りを過ぎたある日。横山家には長女ちなみ(YOU)の一家と、次男良多(阿部寛)の家族が集まってきた。長男純平の命日だったのだ。子ども達とその家族を迎えるので、母のとし子(樹木希林)は忙しく料理を作っていた。
良多は妻ゆかり(夏川結衣)とその子どもあつしを連れていたが、連れ子を伴った再婚の身であるゆかりには、良多の両親に会うのが気が重い。良多自身も失業中だが、そのことを親に言えないでいた。
父の恭平(原田芳雄)は、医者をやっていたが、今は隠居の身。だが子ども達とどう接すればいいのかわからず、ちょっとしたことで怒ってしまう。
そして一日が過ぎていこうとしていた。

全てが素晴らしい!
まず、ダイアローグセンスが素晴らしすぎますね。「誰も知らない」とかそれまでの是枝作品は台本に台詞が無くて即興でやらせていたらしいですが、今回は台本をちゃんと書いて演じてもらったそうで、それが本当なら、あまりに素晴らしすぎます。ひたすら家族で雑談していて説明台詞なんかほとんど皆無のように見えるのに、ちゃんと話が進んでいくうちに、この横山家の家族構成やそれぞれの職業、そして核心となる長男の事故のことなどが浮かび上がってくるんですね。

そして、演技とセット撮影のすばらしさ。ほとんど横山家のセット一杯の作品なのに、人物の出し入れとか本当に完璧。
「幻の光」の頃は、あからさまな小津と侯孝賢のエピゴーネンから入ったし、「ワンダフルライフ」の狙いすぎの設定などもあったけれど、いまや誰とも違う、是枝ワールドを築き上げたなあと思います。

観終わってなんかね、実家に電話しなきゃ、って気分になりましたよ。
そう思ったのは小津を除けば山田洋次の「息子」以来ですね。

あ、それと樹木希林が作る料理の数々がおいしそうなんだよなあ。これを観るとお腹空きますよ。
トウモロコシの天ぷらは本当に旨そうだよ。あの「カリッ」って音がさあ。


本題とは関係ないし是枝監督は意図してないと思うんだけど、原田芳雄演じる父親が、宮崎駿に見えて仕方なかったです。吾朗君とはうまくやっているのかしらん。


ともかく、これは今年観ておかないと損する一本。
年末のベスト選びは、これを観ておいたか否かでガラッと変わりますよ。


観るべし!

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庭から昇ったロケット雲

現時点の今年度ベスト1!

アメリカの片田舎で農夫として暮らす男が、宇宙を目指して、家族と共にロケットを作り打ち上げようとする姿を、ビリー・ボブ・ソーントン主演にて描く「庭から昇ったロケット雲」


牧場で宇宙服を着て馬に乗った男がいる。チャーリー・ファーマーは、かつて宇宙飛行士を目指していたが、父の死によって田舎に帰り、農夫として働く道を選んだ。しかし夢をあきらめず、妻や子ども達の応援を得ながら、納屋で自作のロケットを作り、それに乗って宇宙へ打ち上がろうとしていた。
しかし、ロケットの燃料を多量に買い付けようとしたことから、FBIから目をつけられるようになる。しかもロケット制作のための度重なる借金で自宅まで失おうとしていた。チャーリーは本当に宇宙へ行けるのだろうか。

かなり前からAppleのトレーラーサイトでこの作品のトレーラーを観ていて、この「The Atronaut Farmer」(原題)は気になっていたんですね。どうやら農夫が宇宙を目指す話みたいだってのはわかっていましたけど。まさか主人公の名前がファーマーだとは思いませんでした。
有人飛行ロケットを個人で制作し、打ち上げることが技術的にも費用的にも出来るのかは、ちょっと難しいかもしれないけれど、「夢に向かって邁進する」というストレートなテーマにはやはりウルウルしますね。

主人公を演じたビリー・ボブ・ソーントンはさすが。普通っぽいけど普通じゃない夢を持った男をリアリティを持たせています。妻役のヴァージニア・マドセンも田舎の女をリアルに演じていて、二人の好演が、作品のリアリティをまず支えています。
義父役でブルース・ダーンってのが憎いですねえ。「サイレント・ランニング」ですよ、旦那!
それと、あっと驚くノンクレジットの大スターが登場するのも見所。あのヒット映画を思い出させてもくれるし、なかなかおいしいですよ。
現代なのにわざわざアトラスロケットを作るし、明らかに「ライトスタッフ」チルドレンの作品としても観られる(まあ技術的には枯れているから現代なら個人でも作れるかもしれないという後づけの理由もあるとは思いますが)、そういう意味でいると、リアル系宇宙映画の歴史をちゃんとふまえています。
根性と愛でまとめてしまうかと思ったら、そこはそれなりに段取りを踏んでくれます。

愛する夫が目指す夢を共に支える妻や、そんな父親を尊敬する子ども達。いかにもなアメリカ的家庭の理想かもしれないけれど、これだけ素直に家族賛歌を言われると「いいなあ」と思います。クライマックスからラストで、不覚にも泣いてしまいましたよ。
こんないい映画が、夏休み大作映画に埋もれて地味に公開されているなんて、あまりにもったいない!

お父さんは子どもを連れて観るべき映画です。
シャンテシネにて公開中。
絶対にオススメです!

観るべし! 観るべし! 観るべし!

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純喫茶磯辺

「なかざと いさ」じゃないよ「なか りいさ」だよ。

「机のなかみ」の吉田恵輔監督の新作は、宮迫博之、仲里依紗、麻生久美子による、中年ダメ親父が喫茶店を開くことによるちょっとした日常の冒険とおかしさと悲しさと夢を描いた「純喫茶磯辺」


磯辺裕次郎は、娘の咲子と二人暮らし。妻は離婚し、娘は父親を疎ましく思っていたが、なんとかやっていた。そんなとき、父親が死に、遺産が転がり込んできた。元々まじめに仕事をしていなかった裕次郎だが、お金が入ってますます堕落した生活になっていた。
娘からも自堕落ぶりを言われ、何かやろうと思ったところで思いついたのが、喫茶店。遺産を開店資金にはじめたが、その名も「純喫茶磯辺」。あまりセンスのない店に戸惑う咲子だったが、そこにやってきたのは、美しく若い菅原素子だった。バイトに雇って欲しいという素子を、裕次郎は下心丸出しで雇うことにするが。

いやあ、エロですなあ。というか真っ当なスケベというか。
ただ単にダメ親父が喫茶店をやるというそれだけの話が、麻生久美子の登場で一気に日常のファンタジーに早変わり。
宮迫の駄目ッぷりや、麻生久美子の男を翻弄する女っぷりもいいですが、仲里依紗のいかにも現代的娘の父親へのウザイ感じがよく出てます。
しかしメイド服を全否定する仲里依紗、家に帰ってテレビつけたら「ハチワンダイバー」で巨乳のメイド服ですからね。エロですなあ。

でもこの映画の好ましいところは、なんだかんだと言いながら、誰もが誰もを見捨てないんですよ。父親の宮迫は娘に甘えているようでなんとかしたいと思っているし、あれこれ言う仲里依紗も店を手伝うし。別れた妻役の濱田マリだって、それなりに気をかけている。
だから喫茶店の常連たちも含め、このダメ親父の日常の冒険を微笑ましく見守ってくれているわけですね。
ラストで、あの親子の行く末を、幸あれと思うこと間違いなしです。

というと、新作なのに古すぎる「築地魚河岸三代目」よりも、はるかに松竹大船映画的なものを、吉田監督は無意識的に受け継いでいるんじゃないかと思うわけです。
だから松竹企画部は速攻で吉田監督に次回作のオファーをした方がいいですね。いや、「純喫茶磯辺2」は違うと思うけど。

ま、そんなことより、毎週欠かさず「ハチワンダイバー」をブルーレイで録って喜んでいる仲里依紗ファンはもちろん、ちょっと気の利いた映画をお求めの方は是非ご覧ください。

観るべし!

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クライマーズ・ハイ

日航機墜落事故を題材にした横山秀夫の小説を、「ガンヘッド」「金曜腐食列島[呪縛]」の原田眞人監督、堤真一主演で映画化した「クライマーズ・ハイ」


1985年8月12日。消息を絶った日航機123便。群馬県前橋市にある北関東新聞社の記者悠木は、この事故の全権デスクを任される。群馬県に墜落したことが判明してから、この事件を伝える使命に燃えていくが、そこには新聞社内の人間関係の軋轢や他社とのスクープ合戦の中、デスクは騒然となっていく。そして手にした重大なスクープとは。

原田眞人という監督は傑作か駄作のどっちかしか撮らないひとで、中間ってものがないんですね。「KAMIKAZE TAXI」とか「金融腐食列島」なんかは傑作といってもいいけれど、前作「魍魎の匣」なんてねえ。
でも、前作の良かったところは、主演堤真一を獲得したことで、今回の孤立するデスク役悠木を熱演してます。

誰しも働くものであれば共感してしまうであろう、上司との軋轢や社内のセクショナリズム、辞めたいと思いつつも裏腹の仕事へのプライドなど、小さい描写の中に描いています。そう、これは日航機墜落事故のドキュメントではなく、それをどう伝えようとしたかという会社のドラマなのです。まさしく「事件はデスクで作られる」です。

この作品に出てくる役者はどれも美味しい役どころですが、特筆すべきは堺雅人で、現場を文字通り泥だらけでかけずり回り記事を送りつつも、それを落とされ、それでも食らいついていく地方紙の記者を演じており、ドラマの「新選組!」の山南総長と双璧を成す代表作になると思います。

一方敵役にまわる三人の上司、さらに新聞社社長の山崎努は、どれだけ憎たらしいかわからぬほどのクソ爺っぷり。これも「天国と地獄」「マルサの女」と匹敵する山崎努三大悪役になることでしょう。
でも一致団結するときの田口トモロヲや堀部圭亮のフォロー、常に助けるでんでん、なんだかんだいいつつスクープを抜くときに記者魂を炸裂させる遠藤憲一など、男臭いエキス満載。昼間のパパはちょっと違うぜ!

ちょっと気になったのは、現代パートの挿入が、うーんそこか? と思うところがあるのと、意図がわからないとMIXをミスッたとしか思われないかもしれない狙いすぎの音響。特に冒頭、ぼそぼそとしゃべる高嶋政宏の会話、堺雅人のポケットに入れた小銭の音、販売部のガムを噛む音など、やりすぎと思うけどな。
(劇中でまったく解説されないけれど、なんで堺雅人が小銭をポケット一杯に持っているかというと、北関東新聞社には無線が支給されていないので、通信手段として電話しか無く、常に電話をするための小銭を用意しておかないと困るから、なんですね。原作読んでいないからそういう説明があるのかわかりませんが、多分間違っていないと思う)

2時間25分という長尺はあるけれど、だれるところはありません。
この夏、お子様向けのドラマ映画とかばかりが幅を利かせ飽き飽きしている方は、是非ともご覧くださいまし。

傑作!
観るべし!

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スピード・レーサー

「マトリックス」三部作のウォシャウスキー兄弟の監督最新作は、タツノコアニメの傑作「マッハGoGoGo」を実写映画化。デジタル撮影で原色のポップな世界観を表現した「スピード・レーサー」

スピード・レーサーは、マッハ号を駆りレースで名を挙げていた。スピードにはレーサーの兄レックスがいたが、事故で死んでしまったのだ。その兄の跡を追うように走るスピード。両親をはじめ家族や恋人の支えがあったが、そこにあらわれたのは、大企業ロイヤルトンのオーナー。スピードに好条件の契約を持ちかけるが……。

はじまって5分で目が痛くなるような極彩色。グリーンバッグのデジタル撮影で背景はほぼCGということで、たしかにアニメの世界観は実現しているかもしれません。
でも意図通りの画がデジタルで作り出せたからといって、それが映画的興奮とイコールで結ばれないのは、ジョージ・ルーカスが「スター・ウォーズ」新三部作で証明してしまったわけです。
それがウォシャウスキー兄弟であっても、やっぱりうまくいくわけではないのです。
そういやあ、エピソード1でもポッドレースがあったな。

多分、ルーカスと同じで、前作「マトリックス・リローデッド」で高速道路アクションを描くのに本当に高速道路を造ったことの大変さから、「スピード・レーサー」は全編CGだ! となったんでしょうけどね。
でも、スーザン・サランドンやジョン・グッドマンといったハリウッドきっての芸達者を集めて、アニメそっくりの極彩色の服を着せて、グリーンバッグを前に撮影しても、やっぱりね。なんか痛々しささえ覚えます。

たしかに「スピード・レーサー」とその元になっている「マッハGoGoGo」へのリスペクトは、エンディングを観るだけでもよくわかります。
でもね、実写スタントにこだわったタランティーノの「デス・プルーフ」の爽快感に遙かに及ばないのは、レース映画として致命的な欠陥を抱えているんだと思います。
そういうことでいえば、タランティーノの「スピード・レーサー」を観たかったな、と思ってしまうのは、映画ファンの勝手な夢想というヤツで。


というわけでこっちよりも、「デス・プルーフ」を観ていない人は、近所のレンタル屋さんでDVDを借りてきて観ることをオススメします。

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2008.07.03

秘密結社 鷹の爪 THE MOVIE II 〜私を愛した黒烏龍茶〜

ネットや深夜で放映し人気を博し、TOHOシネマズのプレショーでも起用され人気者、あまつさえ劇場版まで公開されたFLASHアニメ「秘密結社鷹の爪」が帰ってきた。今度はネットとハゲタカファンドをネタに、世界征服を企む鷹の爪団が戦う「秘密結社 鷹の爪 THE MOVIE II 〜私を愛した黒烏龍茶〜」


今日も貧乏ながら世界征服を企む秘密結社鷹の爪。ところが今回、ハゲタカファンドが日本企業を買い漁っていた。このままでは日本の全てが買い取られてしまう。窮地に陥る鷹の爪団。しかし逆転の鍵は、島根県にあったのだ!

いやあ、相変わらずくだらなさ満載。でも人気の故か、スポンサーも増えました。とってもわかりやすい予算ゲージで判断できます。
でも結構芯の部分は真っ当だったりするんですよ。クライマックスの吉田君の台詞にウルッときてしまったり。
そのあとで、無駄に豪華な効果音。(笑)

しかし、あれだけ島根県がフューチャーされていれば、そりゃ島根県も大喜びでしょう。って本当に知事に会ってるんだ。
http://www.pref.shimane.lg.jp/hisho/yookoso.html
確かに「天然コケッコー」「砂時計」に続き、次の朝のNHKテレビ小説の舞台でもあるらしいので、実は島根ブームか?

オマケの「古墳ギャルのコフィー 12人と怒れる古墳たち」が、実は裁判員制度のわかりやすい説明になってて、いやさすがTOHOシネマズのマナームービーをやってきただけのことはあります。

って、いつの間にかマナームービーが「デトロイト・メタル・シティ」になっているぞ。いいのか鷹の爪団。もうお役ご免なのか、まだまだがんばれ、鷹の爪団!


さあ、みなさんご一緒に。
た〜か〜の〜つ〜め〜。

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ミラクル7号

「少林サッカー」「カンフーハッスル」のチャウ・シンチー監督・主演最新作は、貧しい親子のところに現れた宇宙生物との交流を描く「ミラクル7号」


貧しいながらも名門校に通う少年ディッキー。しかし靴はゴミ捨て場から拾ってきたものを直して履き、服は薄汚れている有様。父のティーは建築工事で必死に働くも、息子の学費を稼ぐのが手一杯で、生活には困っていた。
あるとき、ティーはゴミ捨て場でボールを拾ってくる。ディッキーのおもちゃのつもりだったが、それが動きだし、不思議な姿の生き物になる。なんとそれはUFOが残していった宇宙生物だったのだ。

前2作のアクションコメディーから一転、今回は貧乏親子の物語に、ETをプラスしたというところ。でも挿入されるギャグは、これまでの下品なネタが健在。「少林サッカー」の世界的ヒットで、バジェットが広がったとはいえ、ここが変わらないのは作家性にブレがないなあといえますかね。
でも、以前の作品にあった「美人女優をひたすらブサイクに扱う」というのはなくなってました。ここは、今回の作品の主役が子どもであり、シンチーも脇にまわったところも関係しているのかもしれません。
肝心のミラクル7号は……だから貧乏な藤子マンガの世界ですよね。こういうもんかなと。目新しさはないよなと思いましたよ。というかこういうのは散々マンガやアニメで観てきたからね。でもそれを世界配給のバジェットで出来るというのはちょっとうらやましい。

今回は客層を子どもに絞ったのか、ほとんどが吹き替え版での公開になったんですね。最初は字幕版を観るために新宿まで行こうかと思いましたが、雨降ってて面倒でしたから、近所のシネコンで吹き替え版を観ました。そしたら子ども達がドッカンドッカン笑ってて、これはこれで良かったのかなと。
そう、シンチー作品のギャグの下品さも、子どもの世界として描かれると、子どもそのものが下品で低俗なものが好きですから、違和感も少ないし合っていると思います。要するにクレヨンしんちゃんとギャグのレベルは変わらないからね。

「少林サッカー」のようなものを求めると肩すかしを食らうでしょうが、そこはそれ、ギャグ満載の実写オバQとでも思えば、楽しめるのではないでしょうか。

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2008.06.25

世界で一番美しい夜

天願大介監督の最新作は、日本のある村を舞台にした性と生命の神話的物語ともいうべき「世界で一番美しい夜」。

要村という何もない村は、出生率日本一の村として注目を浴びていた。その理由は十四年前、村の新聞支局に新聞記者の水野一八が左遷されてきたことから始まる。一八が歓迎会で連れて行かれたスナックには、とてつもない美人の輝子がいた。輝子には二人の先夫に先立たれていたが、それは輝子に隠された秘密があった。やがて村全体を巻き込んだ狂騒へと発展していくのだった。

この作品のことは、スズキコージの「スズキコージズキンの大魔法画集」を買ってみたら、序文エッセイで佐野史郎がこの作品について書いており、それから結構楽しみにしていた。
で、実はその時、この映画は全編スズキコージの絵と合成したアニメ映画なんだと思っていて、天願大介監督のアニメ映画ってどんなんだろう? と思っていたら、そうじゃないのね。確かにスズキコージの絵との合成シーンはあるんだけど、それは一部なんですね。
どっちかというと「神々の深き欲望」天願版っていうか、多分本人はそういわれることを意識してるんじゃないかとおもうけど。

今村映画に感じる泥臭くて汗臭い世界とは違って、すっぽんぽんの裸もセックスもあるけど、全体としてあっさりした感じなのは、監督の資質の違いなのか、それとも時代的な違いなのか。
時折合成アニメとして挟まれるスズキコージの絵の方が(パンティとかも!)、実写より数段エロくて神話的ですね。
突き詰めた人間模様の向こうに見える“重喜劇”というよりは、コミカルな狂騒のエロテロ物語という方が正しいんではないかと思いますね。

でも、今村的なものを受け継ぐ意志を明確に見せたというのは、天願大介監督の転換期の作品となるんじゃないでしょうか。


サルビルサ!

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神様のパズル

角川春樹プロデュース、三池崇史監督というタッグにより誕生したのは、第3回小松左京賞を受賞した機本伸司原作、市原隼人・谷村美月主演の、なんと青春学園物理SFという他に類を見ないジャンル作「神様のパズル」

綿貫基一は寿司屋でバイトしながら、ロック歌手を目指す青年。そこに双子の弟喜一が海外旅行に行ったために、代わりにゼミで代返を頼まれることに。
渋々大学に行ってみると、今度はゼミの鳩村教授から、ある少女をゼミに連れ出すよう依頼される。その少女の名は穂端沙羅華。人工授精で生まれた天才少女だった。そのサラカとともに、基一は「宇宙の作り方」をゼミで研究することになったのだが。

思っていたより結構面白いじゃないですか。
原作は小松左京賞を受賞が決まってから「面白そうだ」と気になって、速攻で本屋で買って読んだんですね。でも「神様のパズル」ってこんな話だったっけ?

映画では主人公が双子の兄弟という設定が付け加えられたけれど、後半弟がインドに行くシーンって、完全に本題に関係ないですよ。これならいらなかったし、2時間14分という時間が長すぎて、ここをカットするだけで、2時間になるでしょう。
主人公が寿司屋のバイトをしてるってのもどうかと思うけど、クライマックスを観てみて、狙いはわからないではないですね。
期待した学園物理SFっぽいところは、基一とサラカのやりとりがあるのと、ゼミのディベートで盛り上がってきたなあと思ったら、あら、それっきり。
明らかに肝心要の宇宙論を作り手が、わかっていないんだろうなあと思いつつ、それでも一生懸命映像にしようとしているところは微笑ましいです。
「宇宙の晴れ上がり」って、本当に雲間から晴れた夜空が出てくるんだからさ。わはははは。

映画だからビジュアル優先でどでかいジェットコースターみたいな加速器になってましたが、実際は運用が大変だろうなあとか、ここまでやるんならなんでもっとちゃんと説明してくれないのかとか思うんですが、そこはそれ、そう思ってしまうのも、やっぱり天文教育向けの作品ばっかりやってきた身だからなんですかね。

でもこういう物理SF映画(っても最後は物理でも何でもないけど)なんて今後も出てきそうにないんだし、ここはひとつ広い目で楽しみましょう。
どうしても訳がわからんという人は、谷村美月の胸の谷間でも観て楽しんでくださいまし。

あ、この映画では携帯は変形しないんだ。ってNTTドコモだし。

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2008.06.16

アフタースクール

緻密な構成とどんでん返しで高評価を得た「運命じゃない人」の内田けんじ監督の新作は、大泉洋、佐々木蔵之介、堺雅人といった人気・実力を備えた俳優達を揃え、同級生どうしの人間模様とあっと驚く展開の「アフタースクール」


木村と神野は中学時代からの同級生。神野は母校で教師を、木村は商事会社の経理係になっていた。ある日、木村は横浜で若い女性といるところを目撃された後、失踪してしまう。あるルートから依頼された探偵は、同級生になりすまし神野に近づく。若い女性との駆け落ちに思えたこの事件の裏には、と鉄もない大きな事件が隠されていたのだった。

前作でも意外な伏線とどんでん返しで、おおっと思わせてくれましたが、今回もいっそう磨きがかかってます。
M・ナイト・シャマランも似たような感じだと思いますが、シャマランが「シックス・センス」以降、ひたすらにどんでん返しのアイデアに拘りすぎるあまり、細部の伏線がだんだんと雑になっているところからすると、内田けんじ監督に軍配が上がるかな。
ただ、シャマランのどんでん返しは一発どっかんなのに対し、内田けんじ監督のは、細かい小ネタですからちょっと違うかな。なにせトップシーンの全部の台詞からして伏線だらけですし。

後半三分の一で明かされる真相と謎解きはなかなかと思いますが、あまりに作為的すぎて、逆にちょっとやりすぎかな。だから物語は面白いのに、登場人物の印象が弱すぎて、物語のためのコマに見えてくるんですね。
この点、ストーリーに破綻をきたしながらも、愛すべきキャラクターを見せてくれた三谷幸喜監督「ザ・マジックアワー」と真逆かも。
今回は大泉洋や堺雅人、佐々木蔵之介といった芸達者を揃えているのでまだ印象は前作よりよくなりましたが、このあたり、キャラクターに血を通わせられるようになれば、最強ですね。
ともあれお二人とも、私なんか及びもつかないほど凄すぎますが。
ああ、才能がない凡人は悲しいのお。

ともかく、この次はさらに大きいバジェットで活躍してくれそうな内田けんじ監督ですから、ここで見逃すべからず。

前作を観ていない人はDVDで、そしてこの作品は劇場へ!
観るべし!

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