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January 2008

2008.01.27

母べえ

激しい。
こんなに激しい山田洋次作品はこれまでなかった。


黒澤明監督のスクリプターとして活躍してきた野上照代の自伝小説を、山田洋次監督が自身の80作目の監督作品として、吉永小百合主演で映画化した、激動の昭和の戦時を生き抜いた家族の物語「母べえ」


昭和15年。慎ましい暮らしをしていた野上家。互いに“べえ”とつけて、父の滋は“父べえ”、母の佳代は“母べえ”、長女の初子は“初べえ”、次女の照美は“照べえ”と呼び合っていた。
一家の大黒柱である父べえは、ある夜、逮捕され、思想犯として拘留される。留守を預かる母べえを助けるように、父べえの教え子である“山ちゃん” こと山崎、父べえの妹の久子、叔父の仙吉らが野上家に出入りして賑やかであったが、家族の願いは、父べえの一日も早い帰りだった。しかし次第に、戦争の足音が日本を覆い、野上家にもその影は忍び寄っていたのだった。

これほどまでに、ストレートに心情を吐露した作品が、山田洋次監督作品であっただろうか。
戦時中の日本の小さな家庭を描きながら、その一家に押し寄せる大きな時代の波。抗いたくてもそうはさせない時代の空気感を、山田監督の丁寧な演技演出と、日本映画の最後に残された各スタッフの職人仕事と、スターだけが持つ年齢を超えた吉永小百合の気品が隙のない作品として作り出している。

「男はつらいよ」にはじまり、過去の山田作品にも観られた市井の人々の生活の中で見せる山田作品の笑いは健在だが、この作品がこれまでと決定的に違うのは、それが戦争と死の影と隣り合わせの必死さからくる笑いなのである。
例えば、捕らえられ、下げたくもない頭を特高に下げなければならない母べえと警官とのやりとり。周囲の目を気にしながらさりげなく母べえにアドバイスをする隣組のおじさん。力になりたいと思いながら実務にはからきし駄目な山ちゃん。どれも笑いの裏にあるのは、時代を覆う、暗く死の臭いのする影なのだ。
それは、笑福亭鶴瓶演ずる愉快な仙吉でさえ、その先に待つのは“のたれ死に”の運命なのである。時代が下れば彼は“寅さん”として、周囲から疎まれつつも愛される人物として生きていけたかもしれないのに。
山田監督は、その一つ一つの挿話の中に、慎ましくあたたかい家庭のぬくもりと同時に、そうやって肩を寄せ合うように生き抜かざるを得なかった母や娘の悲しみで満たすのだ。
そして物語の最後で、山田監督はこれまでの作品にない、激烈なラストを描いてみせた。現在の我々が気にもしていないこの平和が、あの時代の苦難から連綿と続き、決してこの作品がノスタルジーで振り返ってはいないことを示して。


さて。
今作と前作「武士の一分」が東宝スタジオにて撮影された、ということから来る勝手な思い入れかもしれないが、近作の山田作品に「こうあって欲しかった晩年の黒澤明作品」の姿を観てしまうのは、やはり思いこみがすぎるだろうか。
いくつかのシーンで黒澤作品を彷彿とさせる部分もあるが、そもそも原作が黒澤明監督のスクリプターであった野上照代氏でもあるし、藤沢周平三部作でも衣装として黒澤和子氏(黒澤監督の長女)を起用して、ある面では「撮影所に育てられた日本映画の、バトンを渡された最後の体現者」を意識していると思うのだが。
ただ、そのバトンを山田監督から受け取るのはいったい誰なのか。そもそもそのバトンを渡す場である本来の故郷、大船撮影所はもう無いのだ。
まるで「日本沈没」で沈没後の日本人の物語のごとく、流浪の旅はまだ続くのか。


何はともあれ、観ておかなければならない今年必見の一作。
観るべし!

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2008.01.21

人のセックスを笑うな、ほか

1/20は渋谷にて、
「スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師」
「ゼロ時間の謎」
「人のセックスを笑うな」
を観る。 新年初の映画三昧の日。

いや、こんなにまとめて観るつもりじゃなかったんだけど、「人のセックスを笑うな」が、12:00の時点で18:40の回しか空いてなくて、時間調整でこんなに観ることに。このあともうちょっと時間が合えばシネマヴェーラの深作欣二特集も観ようかと考えたんですが。
ところが最初に観た「スウィーニー・トッド」のあまりのスプラッタぶりで陰々滅々として、このあと続けて「仁義の墓場」も胃が重いよなあ、と、オサレなコージーミステリでも楽しもうと「ゼロ時間の謎」をチョイス。(「ゼロ時間の謎」の原作「ゼロ時間へ」は、ポアロものではなく、バトル警視もの)。劇中で探偵役の警視が「シャーロック・ホームズ、ジョルジュ・シムノン、ミス・マープル……」と名探偵の名前を連呼する「名探偵の歌」とでもいうものを口ずさんでいるのがちょっと粋なコージーミステリ。でも、全体としては出来がフツーで、これなら「名探偵ポアロ」の再放送の方が良いよなあと思ったり。

んで、ようやく本題。
山崎ナオコーラ原作、井口奈己監督、永作博美・松山ケンイチ主演の「人のセックスを笑うな」。
19歳の美大生みるめと、彼を惑わす39歳の臨時講師ユリの恋物語。
ものすごーく平たく言うと、「セックスのあるリアルな『ハチクロ』」。
みるめのガールフレンド役で蒼井優が出てますからね。今回ははぐみより普通の女の子。
井口監督は、ユリを男で、みるめを女の子にして撮ってますね。
まるで松山ケンイチが「かわいい」んですよ。なでなでしてあげたい感じ。みててグッときます。

ただ、全体が137分って、そりゃ長すぎるよ、これ2時間切れるでしょって思うし、いやそう言われるのがわかってて意図的にカット尻が長いのが小癪ですなあ。
それと、白の長袖シャツを松山ケンイチに着せたらいかんよ、ロングショットでたちまちLになっちまうわ。

とはいえ、観ておいて損はないと思います。
ともかくものすごい大ヒットで、劇場は混みまくり。女子率高かったですねえ。
行って観られないくらいなら、オンラインチケット予約で取っておいたほうがいいかもしれません。

あと、この監督の前作「犬猫」は傑作なので、これは観ておいた方が良いですよ。

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2008.01.17

安原製作所回顧録

こりゃ、メチャメチャ面白い本を見つけた!

あなたが「あの○○会社の○○が欲しい」と思ってものを買う場合、その製品がどのように考えて企画され開発され、製品となり、どのような方法で販売され、店頭で見かけるのか、考えることは少ないし、それを一目でわかる形で紹介されることは少ないだろう。

しかし、その一連の流れが“カメラ開発・製造・販売”という形で明かされる一冊。
安原伸「安原製作所回顧録」(えい文庫)(“えい”は木偏に世と書く)


かつて“安原製作所”という名前のカメラメーカーが存在した。
この本は、有名カメラメーカー技術者だった筆者が、退社後たった一人で企業を立ち上げ、フィルムカメラを開発し販売し、そして消えていった1998年から2004年までの激動の記録を、当人自らが筆を執った回顧録である。

1998年当時、カメラ雑誌に掲載されたクラシカルなデザインのカメラを記憶している。“安原一式”という名のそのカメラは、たった一人の技術者が立ち上げた会社で開発し、中国の工場で生産し、ネットで販売するというものだった。これに多くのカメラマニアが注目し熱狂した。
大きな企業で開発され、性能的には申し分のないカメラが市場にあふれていたのに、このカメラになぜ魅せられたのか? そこには「複雑になってしまった世界にたった一人で立ち向かう」ロマンを、多くの人がこのカメラ開発に感じたからに違いない。
とはいえ、このカメラは、発表時の熱狂と裏腹に、実際の販売成功とまで行かず、会社も短命に終わってしまった。その実情と、デジタル化への波が押し寄せたカメラ業界の激動、中国工場での開発生産に巻き起こる苦難の道のりが、冷静な筆致で明かされていく。

筆者が開発から販売、取材までをこなした(たった一人の企業なので当然といえば当然だが)ことで、「メーカーがものを作って売るまでの考え方・行動のあり方」がこの一冊で見渡せるようになっている。これがニコンやキヤノンなどの有名メーカーの「ヒット商品開発裏話」では、その企業の大きさ故に決して描かれなかった部分であり、類書では味わえない面白さになっている。

のみならず、メーカーと、販売小売業と、カメラマニアというものの存在によって持ちつ持たれつ生きてきたカメラ業界全体の構図、それが一気に変革した20世紀末から現在までの様子も、それぞれ冷徹な筆で腑分けされる。
なぜ、メーカーにはブランド名が必要なのか、開発にかかるコストとは、マニアの言い分がいかに的外れなものでありながら、そのマニアがいなければ成り立たない業界とはいったいどんな世界なのか。

あなたがカメラ好きか、メカ好きか、はたまたメーカーというもののあり方に興味があるならば、是非手に取っていただきたい一冊。
いや、これは「ものを作って売る」行為に関わる人、「あのメーカーのブランドにあこがれてものを買う人」全てが読むべき本である。

超オススメ。買って読んで、絶対損はさせません。

読むべし!

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2008.01.04

2007年日本インターネット映画大賞外国映画投票

前の記事で前書きを書いた2007年映画ベストテンのうち、外国映画ベストテンです。
これも日本インターネット映画大賞への投票を兼ねています。


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[作品賞投票ルール(抄)]

 ・選出作品は5本以上10本まで
 ・持ち点合計は30点
 ・1作品に投票できる最大は10点まで

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『 外国映画用投票フォーマット 』

【作品賞】(5本以上10本まで)
  「グラインドハウス:USAバージョン」7点
  「恋愛睡眠のすすめ」   5点
  「今宵、フィッツジェラルド劇場で」4点
  「不都合な真実  」    3点
  「ゾディアック    」    3点
  「ONCE ダブリンの街角で」2点
  「ナイトミュージアム」    2点
  「プレステージ   」    2点
  「ラブソングができるまで」 1点
  「呉清源 極みの棋譜」   1点
【コメント】
2007年の外国映画はなんといっても「グラインドハウス」! それも2本立てUSAバージョン。見終わった後、劇場で起きた大拍手。あんなにイカれた映画を作るタランティーノのイカしたすばらしさ! 脱帽!アイムソーリー!
2位は、わたしゃシャルロット・ゲンズブールのファンなのです。
3位はマエストロに敬意を表して。
4位はなんだかんだと一番の話題作でした。
5位は3年後ぐらいに大傑作といわれると思います。
6位、年末の駆け込みですが、心にしみるいい作品。
7位、これのおかげで商売的に「ナイトミュージアムやりましょ」と助かったので。
8位、まじめなフリして今年一番のバカ映画。大好き!
9位、80年代ポップ文化の木っ端ずかしさと懐かしさよ。
10位、作品全体を覆う静謐さが結構好き。

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【監督賞】              作品名
   [クエンティン・タランティーノ] (「グラインドハウス」)
【コメント】
監督としてのタランティーノの最高傑作じゃないだろうか。

【主演男優賞】
   [アル・ゴア     ] (「不都合な真実」)
【コメント】
ある意味掟破りのチョイスかもしれないけど、しかしさ、やっぱり大統領になろうって人間は、プレゼンがうまいのね。

【主演女優賞】
   [シャルロット・ゲンズブール] (「恋愛睡眠のすすめ」)
【コメント】
まだまだいけます、シャルロット。

【助演男優賞】
   [カート・ラッセル  ] (「グラインドハウス」)
【コメント】
「グラインドハウス」であの怪演をやってくれたカート・ラッセルに脱帽。惚れ直しました。

【助演女優賞】
   [なし           ] (「        」)
【コメント】
「ラブソングができるまで」のドリュー・バリモアにしようかと思ったけど、なにせ主演なので、今回はなし。

【新人賞】
   [ゾーイ・ベル      ] (「グラインドハウス」)
【コメント】
正確にはベテランスタントウーマンだから新人というのもなんだけど、彼女のテクニックと根性に。

【音楽賞】
  「ONCE ダブリンの街角で」
【コメント】
なんといっても、主役二人の歌が、この映画の真の主役なので。

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【勝手に○×賞】
   [ロバート・アルトマン] (「今宵、フィッツジェラルド劇場で」)
  「名誉賞        」
【コメント】
たまには名誉賞をあげるというのもいいんじゃないですかね。

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 この内容(以下の投票を含む)をWEBに転載することに同意する。
(同意しない方は「同意する」を「同意しない」に書き改めて下さい)
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というところで。さあ2008年はどんな映画に出会えるかな。

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2007年日本インターネット映画大賞日本映画投票

気がつけば、もう2008年となりました。
まずは今年最初のブログ内容として、2007年の映画ベストテンを書き記すことにします。
なお、この内容は、そのまま日本インターネット映画大賞への投票となります。
「自分も投票してみたい」という方は、リンク先のオフィシャルサイトをご覧いただき、規定の方法で投票してください。

さて、まずは日本映画のベストです。
************************

[作品賞投票ルール(抄)]

 ・選出作品は5本以上10本まで
 ・持ち点合計は30点
 ・1作品に投票できる最大は10点まで

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『 日本映画用投票フォーマット 』

【作品賞】(5本以上10本まで)
  「ALWAYS 続・三丁目の夕日」6点
  「アヒルと鴨のコインロッカー」5点
  「キサラギ      」     4点
  「天然コケッコー  」      4点
  「クローズZERO   」      3点
  「魂萌え!      」     2点
  「しゃべれどもしゃべれども」 2点
  「それでもボクはやってない」 2点
  「世界はときどき美しい」   1点
  「釣りバカ日誌18」      1点
【コメント】
日本映画ベストは、完全に若手監督中心。1位は今回もういいかなと思ったけど、あれだけ言及しておいて1位にしないのはやっぱり座りが悪いので。
2位は瑛太っていい役者だな、と本当に感動しました。
3位は脚本の力。
以下の作品も、はつらつとした役者の魅力にあふれた傑作揃いだと思いました。

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【監督賞】              作品名
   [中村義洋     ] (「アヒルと鴨のコインロッカー」)
【コメント】
じわじわとくる感動。これは

【主演男優賞】
   [小栗旬        ] (「クローズZERO」)
【コメント】
キサラギと込みで。色艶のある役者になりつつあります。

【主演女優賞】
   [風吹ジュン    ] (「魂萌え!   」)
【コメント】
初老を迎えつつある女性の色気。

【助演男優賞】
   [瑛太     ] (「アヒルと鴨のコインロッカー」)
【コメント】
「アヒ鴨」を観て、瑛太ってこんなに良い役者なんだ! と驚きました。

【助演女優賞】
   [三田佳子     ] (「魂萌え!   」)
【コメント】
まさに怪演。女の怖さを見せ付けてくれました。

【新人賞】
   [夏帆        ] (「天然コケッコー」)
【コメント】
まさしく伸び盛りの魅力ですね。まぶしい。

【音楽賞】
  「アヒルと鴨のコインロッカー」
【コメント】
ディラン、でしょう。この映画にはこれしか考えられない。

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【勝手に○×賞】
   [山崎貴       ] (「ALWAYS 続・三丁目の夕日」)
  「次回作はアレですね」
【コメント】
って、そうですよね、次回作はアレしかないですよね。
待ってます。

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外国映画のベストは、次の内容をご覧ください。

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