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May 2009

重力ピエロ

映画化連発の伊坂幸太郎原作の最新公開作は、直木賞候補にもなった、謎の連続放火事件とその事件を追う兄弟とその家族の物語「重力ピエロ」


仙台市街で、連続放火事件が起きる。落書き消しの仕事をしている春は、兄の泉水とともに、事件の法則を見つけ出し、犯人を追うが、それは兄弟の家族の重大な秘密と繋がるものだった。

結構良い出来じゃないですか。
伊坂幸太郎の原作は、個性的なキャラと、ほんのちょっとした気の利いた台詞と、それが思いもかけない伏線へと繋がる快感とかあるわけですが、それをなんとか映画にしようとすると、とたんにダメダメになっちゃう。典型が「陽気なギャングが地球を回す」ですが。

で、今回の「重力ピエロ」は原作から、いかにも美味しそうなところをばっさり切るということからはじめ、主人公の家族の話に絞ったのが功を奏していると思いました。
他の作品とのリンクキャラである黒澤とか使いたくなるけど、いの一番にいないしね。

脚本を書いた相沢友子って、ドラマ「鹿男あをによし」の脚本の人か。映画だと「大停電の夜に」とかも。なるほど。上手いなあ。


主人公である泉水と春を演じている加瀬亮と岡田将生は、いま乗ってる俳優ふたりですね。立ち姿がきれいというかね、特に春を演じた岡田君は春そのものだし、それを支える加瀬亮も、受け芝居がきれいです。
父親役の小日向さんも、人のよさげな、でも頼りなさげな感じと毅然な感じが相まって、ちゃんとあのお父さんになってましたね。市の職員姿がまあ似合うこと似合うこと。

あと、後半に出てくるある男が、もう、そういう血も涙もない台詞を言える役はこの人しかいないな、と思いましたね。なんかとめどもない虚無感というか、いつ死んだって構わないような投げやり感を漂わせたら天下一品です。


伊坂原作作品の中では、「アヒルと鴨のコインロッカー」は、奇跡の傑作だからあれを超えることは難しいと思いますが、この「重力ピエロ」は、それに匹敵する出来だと思います。特に原作が大好きという人ほど、原作は忘れてみれば、素直にいい作品だと思えるはずです。

観るべし。(←最近つけてなかったからサービス)


ちなみに、今回の映画化でオミットされた、黒澤が活躍する「ラッシュライフ」ももうすぐ公開です。

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おと・な・り

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また、熊澤尚人監督にやられちまったよっ!

「ニライカナイからの手紙」「虹の女神 Rainbow song」の熊澤尚人監督最新作は、生活の音で存在を確かめ合う隣同士に住む男女の、恋の始まる物語を、岡田准一、麻生久美子主演で描く「おと・な・り」


カメラマンの野島聡と、フラワーデザイナーを目指す七緒は、古いアパートに住む隣同士。互いの生活の音を壁越しに聞こえて気になるものの、互いに交流はなかった。
聡は、親友でモデルのシンゴの写真集で名を売っていたが、本当に撮りたい写真を求めて、仕事を辞めようとしていた。
七緒はプロのフラワーデザイナーになるために資格試験を受け、合格したら勉強のためにフランスに行こうとしていた。
互いに交差しないと思っていたふたりの人生が、思いがけない繋がりをみせていくのだった。


普通ですと、良い作品、みんなに観て欲しい作品には「観るべし!」とかつけるところなんですけど、ごくまれに「誰も理解してくれなくて良いから、とにかく理屈抜きで惚れてしまった」という、十代の恋のような、恥ずかしいくらいに好きになってしまう作品というのがあります。
それが熊澤尚人監督の「ニライカナイからの手紙」、「虹の女神 Rainbow song」で、もうたまらなく好き!
熊澤作品の世界がたまらなく愛おしいのです。

今回の「おと・な・り」も、実はまったくノーマークだったのに、たまたま「鴨川ホルモー」を新宿ピカデリーで観たときに予告で観てしまって、もうたまらなく待ちきれなくて、恵比寿ガーデンシネマでの先行ロードショー初日に行ってきました。


これを観ながら、似たような設定の某作品を思い出しましたが、あちらがロマンチックコメディだとするなら、こちらはもう少し(かなり)リアルな方向の演出。
とはいえ、中盤はオイオイと思う展開を見せつつ(「虹の女神」における相田翔子みたいな)も、最後は、観たいものを観せてくれました。
というか、最後の10分は、身もだえしながら観てましたよ。「うわあ、まじで、ほんとうに、さいごは、……になってくれるんだろうな!」と思ってましたから、熊澤監督の掌の上に乗りまくり。

岡田君も麻生久美子も、等身大の30歳の男女を演じていて、非常に好感が持てました。カメラマンの手付きとか、フラワーアレンジメントの動作とか、ちゃんと様になっていたと思うし。

「ニライカナイからの手紙」や「虹の女神」の時は、時々力業が見え隠れしましたが、今回の「おと・な・り」が一番安定しているかな。万人受けするという意味では、今回が一番かも。


5/30から全国順次公開だそうです。
みんなに観て欲しいのですが、さっきも書きましたけど、今回は「観るべし!」はつけません。
この感想を読んで、他の人が観て「お前がいうほどでもないジャン」とか「いまいちだった」とか何を言おうと関係ありません!
惚れた女(映画か)に理屈はいらないんです!
わたしが好きだからそれで良いんです!


ということで、2009年の邦画暫定1位はこれです。
今年、これを抜く映画に出会えるかな?

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天使と悪魔(ちょっとだけネタバレあり)

(ちょっとだけネタバレになるように書いてます。ご注意を)


ダン・ブラウン原作の大ヒット映画「ダ・ヴィンチ・コード」の前日談を、ロン・ハワード監督、トム・ハンクス主演の黄金コンビで映画化した「天使と悪魔」

ローマ教皇の死去に伴い、次期のローマ教皇を選出するコンクラーベが行われようとしていたバチカン。一方スイスにあるCERNでは反物質の生成に成功する。しかしその喜びもつかの間、何者かによって反物質が盗まれてしまう。
バチカンでは次期教皇の有力候補である4人の枢機卿が誘拐される。その誘拐に関与していたのは、かつて科学を旗印にカソリック教会に反旗を翻した秘密結社イルミナティだった。
この問題を解決するために呼ばれたのが、かつてルーブル美術館で起きた猟奇殺人とダヴィンチの謎を解決した宗教象徴学者ロバート・ラングドン教授だった。

えー、なにせミステリー映画ですから、何かを書こうとするとほとんどネタバレになってしまうのですが、まあそこはそれ。
タイムリミットサスペンスで2時間20分をとぎれなく魅せてくれます。
いいんですけどね、えー、なんといいますかねえ。
(ボカしておきますが、念のためネタバレ改行します。見たくない人は、見ないように)


















なんていうのかな、全てのどんでん返しが、やっぱり後期クイーン問題に思いっきりぶち当たってて、この展開、○○○○○がいなけりゃ成立しないじゃん、って思っちゃうのですよ。

だから、先の展開とか考えたらいけません。
そんなことを考えたら、一気につまんなくなるので、やめましょう。
頭空っぽで観たら、ワクワクと楽しいかなと思います。

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佐藤和歌子「角川春樹句会手帖」

とある方からのオススメ本だったので、読んでみたらこれは面白かった!
扶桑社の文芸誌「en-taxi」に連載された句会記録をまとめた「角川春樹句会手帖」


ある日突然、「句会をやるから俳句を二十句作って持ってこい」といわれたらどうしますか?
しかもその句会の評者はかの角川春樹。かつて角川書店社長として、出版の傍ら、「犬神家の一族」に始まる角川映画を作り上げた、あの角川春樹ですよ。
知らないひとは知らないが、角川春樹は俳人として「信長の首」「花咲爺」などの句集を出しているので、そんな人物が待ちかまえているところに、「素人なので俳句は出来ませんでした」と逃げることは許されない。

かくて哀れなる新人俳人たちは、必死の思いで慣れぬ手付きで俳句を捻って、おずおずと差し出すのである。
福田和也、寸(←福田氏の弟子)、佐藤和歌子、石丸元章、北方謙三、中畑貴志、澤口知之、斉藤斎藤、田中悠貴、茂木健一郎、斎藤環、藤原敬之、前島篤志、さいとう健、菊池成孔、佐伯一麦、島田雅彦、ねじめ正一、高橋春男。

とまあ、これらそれぞれの分野のトップの面々が、俳句を捻ってくるんですが、それぞれ、やっぱり人を見事に表すんですよ。北方謙三はハードボイルドだし、石丸元章はヤバ目のネタにはしり、島田雅彦はやっぱり色ネタだしね。

わたしは普段、俳句も短歌も詩も、その手のたぐいにはあまりふれないのですが、かつて角川春樹の句集「信長の首」は読んだことがあって、それで俳句の概念をひっくり返されたというか、ビックリしたのを覚えています。
なんていうのかな、真剣がずらりと並んでいるような感じというのかな、下手に触れると手が切れそうな感じがしたのを覚えています。

 向日葵や信長の首斬り落とす

これは角川春樹の代表句ですけどね、なんかねえ壮烈ですよねえ。

話を戻すと、今回の句会では、飲み食いしながら(この句会では必ず何か食事しながら行われる)素人俳句が角川春樹の手にかかって直されると、あら不思議。見事な俳句になっていくのです。
例えていうと、麻雀で、おもしろみのない手牌なのに、角川春樹が「ちょっとかしてみ」と一回自摸(ツモ)っただけで、見事な手牌に早変わり、ということになるのです。
時々やりすぎて、角川春樹の句になってしまうところはご愛敬ですが。

俳句の入門本とか、そういうものではないけれど、ワークショップの記録として読むと、はるかに面白く、臨場感があって、句会の末席にいるようなワクワク感が味わえるんですね。
それに合間に出てくる食事が旨そうなんです。何故だろうと思ったら、この作者(というか句会の記録者)である佐藤和歌子さんって、焼き肉屋の食べ歩きエッセイ「悶々ホルモン」の作者なんですね。なるほど食事の席の臨場感が見事なわけです。

ちなみに、今回登場した俳句のなかで、読んで一番面白かったのは、歌人である斉藤斎藤さんのやつですね。

 角川文庫生乾きでもにおわない

 費用対効果 ヤクルト対巨人

 震度3いつでも抱ける肉ひとつ

 おれがよく言っておくから日本の夏

なんだか面白い。
これが北方謙三だと、当たり前すぎる。

 音なしのシェイカーを振りし修羅がいる

 俺が立ち舞う枯葉さえ波にけり

ね、やっぱり北方ハードボイルドでしょ。
どうせなら「ソープ行け吠えるおやじの枯木道」とかでどうだ。(笑)

あと斎藤環の句はオタク的には可笑しかった。

 大宇宙昭和のおたく「そら」とルビ

 しばらくは父も子もなしゲド戦記

はははっはははあはっはは。

というわけで、読み終わると、ちょっと自分も俳句をやってみようかしらんという気になってきますので、だまされたと思って一度読んでみてはいかがでしょうか。


あ、決まり文句を忘れてた。せっかくだから一句詠んでみます。


 読むべしといわずば喰われし海鼠の日

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鴨川ホルモー

ゲロンチョリ!

「釣りバカ日誌」シリーズ、「ゲゲゲの鬼太郎」の本木克英監督最新作は、万城目学のヒット小説を、山田孝之、栗山千明主演で描いた「鴨川ホルモー」


京都大学を二浪して入学した安倍明。ある時「普通のサークルだから」との勧誘をうけ、コンパに参加する。そのサークル「青竜会」は普通どころか、とんでもない秘密を抱えたサークルだったのだ。

本木監督の演出というのは、基本的に場を与えてその中で役者を泳がすことをやるので、上手くはまれば役者次第でどんどん面白くもなるし、逆に芸のない役者だと持たないので、役者も下手だし緩いだけの映画になっちゃう。

今回の「鴨川ホルモー」は、山田孝之や濱田岳といった芸達者はやっぱり上手いのね。逆に芦名星とかは演技力の無さが露呈しちゃう。本木さん、そこを演出で救ったりしないからね。

全体としては、CGとの融合や、原作のとんでもなさ、ナンセンスさをそれなりに画にしていたと思います。
ただ、話として盛り上がってくるまでの緩さが、相変わらず本木映画らしいともいえるので、そこをどうみるかで評価が変わってくると思います。
ただし、その緩さが、「鴨川ホルモー」という題材ではいい方向に作用していると思うので、人によって「本木作品の最高傑作」という言葉も、わからないではないです。

でも、デビュー作「てなもんや商社」のときのような何が何でも楽しませるぞというがむしゃらさがほしいところですが、緩い気持ちで観れば、なかなか楽しめる作品だと思いますよ。

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新宿インシデント

アジアのアクションスター、ジャッキー・チェンが、アクションを封印し、新宿黒社会に生きる男の姿を「つきせぬ想い」「ワンナイト・イン・モンコック」のイー・トンシン監督の手で描いた「新宿インシデント」


恋人を追って、日本に密入国してきた鉄頭。新宿の片隅に身を寄せた鉄頭は、生きるために仲間と悪事を働き、新宿を仕切る他の華僑や日本のヤクザたちとしのぎを削って次第に勢力を伸ばしていく。しかし鉄頭は普通の暮らしを望んでいたが。

映画全体としてみたら、悪くない出来だし、香港映画にしては、変な日本にもなっていないので、安定して観られます。
ただまあ、正直、新宿黒社会のヤクザ映画はVシネあたりでいっぱいあるわけで、それをジャッキーで観なきゃいけないのかと思うと、ちょっと複雑。
どうみても主役は30代ぐらいの設定なんだと思うんですよね。それがジャッキーは50代ですから、ちょっと無理がある。物語の中でジャッキーだけがずれているんですよね。だけど、ジャッキー主演だからこれだけの大々的なロケも出来たわけなので、なんとも痛し痒し。

まだ身体が動くだけ、アクション俳優としてのジャッキーが大きすぎたなと思います。だから、中途半端にアクションがありそうな黒社会映画じゃなくてもっと違う方向にシフトした方が良いんじゃないかな。
チャップリンがキャリアの後半に「ライムライト」を撮ったように、ジャッキーの「ライムライト」を撮る時期がそろそろ来ないといけないんじゃないかなとも思います。

というところで。

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GOEMON

「CASSHERN」の紀里谷和明監督の第二作は、独自のビジュアルセンスで作り上げた安土桃山時代を舞台に、天下の大泥棒、石川五右衛門が豊臣秀吉を相手に大暴れをする、痛快娯楽作「GOEMON」


ようやく、豊臣秀吉により天下が統一された時代。この世に「天下の大泥棒」と呼ばれた男がいた。その名は石川五右衛門(江口洋介)。紀伊国屋文左衛門の蔵に入って宝物を盗む。追っ手をすんでの所で逃れるが、盗んだ宝物の中に、箱があった。その箱には、ある重要な秘密が隠されていた。五右衛門が追うその謎は、天下人秀吉を揺るがすものだった。

いやあ、思ったよりも悪くないんじゃないですかね。
「CASSHERN」は延々と辛気くさい話が展開するばかりで、いつになったらアクションがあるのかと思いましたが、今回は時代劇だからか、最初からアクション満載です。その点は、飽きないんじゃないかと思います。「CASSHERN」はこのレベルで画を作りたかったのねとわかりました。
というか、密度が濃いCG合成カットがてんこ盛りで、飽きないどころか、息抜きのしどころがないんですよ。お手本になっている「スターウォーズ エピソード1〜3」と同じで、すべてのカットを思い通りに画を描かないと気が済まないものだから、緩急が無くて、急ばかり。

後半なんて、クライマックスの連続で、「えっ、まだ話があるの」と思うばかり。時間的には前作よりも引き締まって2時間強なのに、2時間半以上あるように思うんですよね。それは緩急の緩がないせいと、どう考えても物語は秀吉との対決がクライマックスなのに、それ以上まで欲張るからですよ。

秀吉以下、独自の解釈で描かれているので、無駄に時代背景を知っていると「えーっとこれがあれで」と脳内史実との整合性を追うのにつかれてくるものです。
でも茶々(淀君)のビジュアルはやっぱり宇多田ヒカルに似てるんですよ。
更にいうと江口洋介の五右衛門も伊勢谷友介のキャシャーンも、誰かに似ているなと思ったら、結局監督自身の自画像だもんね。そういう意味では正直な人ですよ。

しかし、独自のビジュアルというんだけど、なんか都合の良い和テイストで、うーんという感じ。和風テイストの創作料理を出す居酒屋、とかあるでしょ。何故素直に和風居酒屋と言わん! とか、EXILEが都合のいいように和というのと近い違和感を感じるんですけどね。「和」とか言いながら、みんな靴履いて土足だし。

決して損はしない出来なので、あれもこれも観ちゃったという人には、GW中のあと一本で、観ても良いんじゃないですかね。
というところで。

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グラン・トリノ

クリント・イーストウッド監督最新作にして俳優クリント・イーストウッドの久々の主演作は、古いアメリカを体現した孤独な老人と、変容したアメリカ社会の中で、他民族の隣人との交流を描いた「グラン・トリノ」


最愛の妻に先立たれた、ポーランド系アメリカ人であるコワルスキー老人。かつて朝鮮戦争に従軍し、フォードの工場で働き続けた男は、しかしいまではふたりの息子とその家族とも疎遠になり、何があっても腹立たしい毎日だった。特に隣に引っ越してきたアジア系の一家には、古き良きアメリカの姿など、何もなく、ほとんどエイリアンのような存在だった。
ある夜、コワルスキーの大事にしているヴィンテージカー、「グラン・トリノ」を誰かかが盗もうとガレージに入った。銃を突きつけると、その泥棒は隣に住むモン族の少年タオだった。
タオはお詫びにコワルスキーの手伝いをすることを申し出るのだが……。

いやあ、これがアメリカでヒットする理由はよくわかりますよ。
経済はガタガタになり、社会の中心にいたはずの白人は郊外に移り、いまのアメリカの有り様に、たまったフラストレーションを体現しているのが、まさしくイーストウッド演じるコワルスキーですもの。頑固ジジイで偏屈で、自分の生き方を曲げてこなかった老人が、気がついたら誰とも心を開けない人間になっていた。そこに現れたアジア系の少年であるタオが、もうナヨナヨしまくってて、逆に姉とか母とか祖母の方が強い強い。アジアってやっぱりそうなんだなあと。一応お父さんもいるんだけど、ほとんど出番ないもんね。
すごいよ、イーストウッドにメンチ切っているばあちゃんって。(笑)

イーストウッドはある意味年金暮らしのダーティハリーなのですが、そのタフガイぶりはいまだ健在。粋がっている若いのなんて、ボコボコにしてやるぜと気合い入れまくり。

中盤から、ロバート・B・パーカーの「初秋」のような、主人公が少年を男に育てる展開になっていきますが、これがやっぱりいいのはやることが基本的に家事なんですよね。しかも「オレは世界で一番の女と結婚して幸せだったぜ。お前はどうなんだ? デートにも誘えないでどうする」と恋の指南までやってしまうあたり違うねえ。こういうのを日本でやると、色恋沙汰まではないからねえ。あ、唯一あるのは「男はつらいよ」か。

クライマックスからラストに至る展開は、いかに自分が老いを認め、隣人を認め、世の中の変化を認め、次世代を認めるかということなのであって、いやあそれを自らの主演作でやってしまうのですから、イーストウッドがここまでの巨匠になるとは。だってどんな巨匠の映画だって、晩年は説教節だよ。それをそうなりそうなテーマでありながら、自らの解放と救いという、違う方向にもっていくことに感動を覚えます。

しかし、まあ金かかってないよねえ。
日本だと、地方発映画とかあるじゃないですか、あんなレベルの映画だもん。
基本的にオールロケで、しかもロケーションが主人公の家と隣と、教会と床屋だよ。スターは監督でもあるイーストウッドだけで、モン族の人たちとか、完全に素人演技。素人のモン族のばあちゃんに囲まれておろおろしているイーストウッドを観ることになるとは。

GWに何を観ようかと考えている人には必見。
特に30代から上には、何かしら感情移入出来ると思いますよ。

観るべし!

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スラムドッグ$ミリオネア

ダニー・ボイル監督最新作は、インドのムンバイを舞台に、クイズ番組に出た少年の、インド社会の暗部での壮絶な半生を描く、「スラムドッグ$ミリオネア」


クイズ番組「クイズ$ミリオネア」。イギリスで生まれ、世界各国で同じフォーマットで放送されているこの番組。インドの「クイズ$ミリオネア」に、電話会社のオペレータールームで給士をしているジャマールが主演した。ジャマールが次々に正解していき、あと一問のところまでで番組の放送時間が終了してしまう。無学なジャマールが正解したので、不正を疑われ投獄される。事情を聞かれ、ジャマールはその壮絶な半生を語り出す。ジャマールは誰も到達しなかった全問正解が出来るのか?

面白い!
今年のアカデミー賞を獲ったことで、気にはなっていましたが、思ったより周りの評価が高くないので、あれ? と思っていました。
でも、観てみたら、すんごく面白いジャン!
映画は倒叙といおうか、回想形式の作りが上手いですね。「なぜ、彼はクイズの答えを知っているのか?」をとっかかりに、クイズの答えがインドのスラム街における主人公の数奇な物語と対応して、「トレインスポッティング」並の疾走感で切り抜けていくのですから。

多分、批判的な反応というのは、ご都合主義の展開についてなんだろうけど、明らかにこれは確信犯。偶然だけだとついて行けなくなりそうなのを、偶然を徹底して積み上げ重ねることで、奇跡を作ってみせたということでしょう。そののり付けに、誰もが知っているクイズ番組を持ってきたんでしょうね。
ストレートな初恋物語なのと、あまりに強烈なムンバイの現実を組み合わせると、ファンタジー化しちゃうということなのでしょうかね。

しかし観ていると、なぜかクイズ司会者の声が、脳内でみのさん声に変換されていくんですけど。クイズのレベルはこれならわかる、というか最終問題はわかったけど、逆に第1問はわたしは知らないわな。(笑)

出来ればラストはもうちょっと長くても良かったかな。あれがないとインド映画にならないからねえ。

これはもう、最初に乗れるか乗れないかなので、乗れればメッチャ面白い2時間、乗れなかったらストーリーのあら探しの2時間になっちゃうことでしょう。
でも、アカデミー賞獲った作品なんだし、観て損はないですよ。
観るべし!

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