劔岳 点の記
新田次郎の山岳小説を、「八甲田山」などで日本を代表するカメラマン木村大作が初監督に挑戦、浅野忠信、香川照之ら出演で、明治に地図作成のために劔岳の登山を行った測量隊の姿を描いた「劔岳 点の記」。
明治三十九年。陸軍は空白となっている地図作成のため、陸地測量部の柴崎芳太郎に、劔岳の登頂と測量を命じる。柴崎は案内人の宇治長次郎や仲間たちと共に、劔岳を登る。しかしそれは困難を極める厳しいものだった。
上手くない。
上手くないというか、こちらが観ていて恥ずかしくなるほど、純情かつ素朴な映画なのだ。
主人公の浅野忠信演じる柴崎は、そのほとんどをこれまでの映画以上に寡黙な無表情を通す。その心情を語っているようでほとんど何も語らない。香川照之は常に引き立て役に徹し、松田龍平はとがった若者を演じ、宮崎あおいは、観ていて赤面するほどかいがいしい柴崎の妻を演じる。まさしく純情きらり。
ライバルの山岳会のリーダー演じる仲村トオルは、最近続いたキザな男をここでも繰り返す。「ナイス、測量隊!」といつ言い出すかドキドキものである。
だれもがほとんど演技らしい演技をしているわけではない。というより演技演出らしいことをほとんどしていないかのような台詞の棒読みのオンパレード。
展開も、愚直なまでに測量隊の足跡を、順を追って見せていき、台詞はひたすらに内面のモノローグと説明台詞の応酬。
音楽にいたってはテンプトラックそのまんまじゃないの、といいたくなるようなバッハやヴィヴァルディのクラシックの名曲の数々。
これが、数々の武勇伝を映画界に残したカメラマン木村大作の初監督作なのかと思うと、恥ずかしいほど純情すぎるではないか。素朴すぎるではないか。
しかし、その愚直なまでの測量隊の登山の行程を観ているうちに気づく。
劇中なんども主人公柴崎が問い直す「地図作り」とは何かが、つまり木村大作監督自身の「映画作り」の足跡そのものであることを。
実は浅野忠信の主人公柴崎以上に、思い入れを持って描かれるのが、香川照之演じる測量隊の案内人、宇治長次郎。長次郎が柴崎に対してひたすらに献身的に尽くす姿に、これまで映画作りのために数々の監督に尽くしてきたカメラマン木村大作がダブってくる。
クライマックスの長次郎と柴崎のやりとりが、まさにカメラマンと監督の理想のやりとりとして描いて見せたのである。苦楽を共にした仲間たちの姿と、登りきった者だけが通じ合えるクライマックスの交歓に、涙せずにはいられない2時間半。
なんことはない。
大作映画として宣伝されているこの映画は、実はとてもプライベートな、大作(だいさく)映画なのだ。
観るべし。
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